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孫子の兵法|東京の英知コンサルティング株式会社

孫子の兵法|東京の英知コンサルティング株式会社へ。ビル・ゲイツ、孫正義、松下幸之助、本田宗一郎など一流の経営者たちは、孫子の兵法を学び実践していました。

なぜか苦境を跳ね返す人、飲まれてしまう人

一流のビジネスパーソンの問題解決の指針

ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)、孫正義(ソフトバンクG創業者)、松下幸之助(パナソニック創業者)、本田宗一郎(本田技研工業創業者)。彼ら近代の一流経営者の共通点は、『孫子』を読んでいたことです。この世界に大きな影響を与えた最強の兵法書『孫子』。

現代でも一流のリーダー、優れたビジネスパーソンは『孫子』を愛読していることが少なくありません。しかし疑問も残ります。約2500年前に書かれた『孫子』は、純粋に戦争に勝つための兵法書として世に出ました。現代の私たちは、敵を火攻めにしたり部隊を編成して軍事行動を指揮したりはしません。ならば一流の人物は、『孫子』からいったい何を吸収しているのか。答えはリスクと挑戦のバランス感覚にあるのです。

「戦争は国家の重大事であって、国民の生死、国家の存亡がかかっている。それゆえ、細心な検討を加えなければならない」 

「最高の戦い方は、事前に敵の意図を見破ってこれを封じることである。これに次ぐのは、敵の同盟関係を分断して孤立させること。最低の策は、城攻めに訴えることである」

2つの引用を読むと、孫子がリスクを強く意識した思想を持つことがわかります。しかしリスクを怖がるだけで、何の行動も起こせなければ戦争には勝てませんし、ビジネスを前に進めて成功もできません。あらゆる挑戦と競争が、リスクを持つ存在であると理解しながら、あえて挑戦するならどうすべきか、まさにリーダーが決断すべき「前進」と「危機管理」をバランスよく行うための、極めて優れた指針が孫子には含まれているのです。

生き残る人の選択肢を見つける5つの方法

「もうダメだ!」とすぐにリーダーが諦めてしまっては、周囲や組織は困惑します。問題に直面して、すぐに精神的に行き詰まり、抵抗することや打開を放棄してしまう人もいますが、そのような人はしょせんリーダーに向いていませんし、一流の人物になれるわけがありません。下手をすれば、家庭崩壊さえ招いてしまいます。

しかし『孫子』は、単に勇猛果敢でなんにでも恐怖を感じるな!当たって砕けろと言っているわけではないことに注目してください。誰でも怖いのです、誰でも精神的にへこむのです。優れた将軍でも、優れた軍師でもこれは同じです。では違いはどこにあるのか?

最大の違いは、彼らが問題に対して複数の選択肢を見つける能力と気概を持つことです。問題の解決策は、常に一つではありません。それどころか、無限にあるといっていい。選択肢が一つしか思いつかない人は、それがダメならすぐに行き詰まります。それで簡単に「もうダメだ!」となる。つまり、選択肢を見つけられるかどうかが勝負なのです。

問題に直面して困ったとき、あなたはどんな対策をすることで選択肢を見つけますか。
ビジネスだけではなく、プライベートや人生そのものの問題を解決する時にも、『孫子』の描く問題解決の指針は、苦境にあえぐ私たちを救ってくれる絶大な効果を発揮します。

【孫子に学ぶ選択肢を見つける5つの方法】

○別の専門知識を持つ人を探して味方にする
自分のくだらないプライドをばっさり捨てる
あなたが必要なものを、豊富に持つ人に泣きつく
所属する組織を変わる、生きる場所を変える
無能な上司を見限る、とばっちりを受けない場所まで逃げる

兵法書『孫子』は古代中国の呉で将軍となった孫武(そんぶ)によって書かれましたが、彼を呉王に推挙した伍子胥(ごししょ)という人は、楚の国で政敵に父と兄を殺されて、復讐のため呉に逃げて呉王の右腕になった人物です。


伍子胥は自分だけでは憎い楚国に勝てないと考え、天才的な戦略家である孫武を見つけ、自分の陣営に引き込みました。こうして呉と楚、さらには隣国で天才軍師の范蠡を抱える越を巻き込んだ3国の激戦が展開されるのですが、この歴史で打開策を見つけた人物は、先に掲げた5つの方法を見事に使いこなし、問題を巧みに切り抜けて生き残っています。

最強の兵法書『孫子』を学ぶ者にとっては、時に逃げることさえ最高の選択肢です。「国は亡べばおしまいであり、人は死ねば生き返らない」と孫子は述べていますが、逆に勝負を避けて一時的に敗者になっても、逃げることで再起ができ、復活も可能になるからです。大切なのは、逃げるということも含めて選択肢を多く持つ精神的な余裕なのです。

問題につまずく人、踏み台にできる人

ビジネスでも人生でも「目標→問題→解決策」の3つは1つのセットであり、このバランスが取れている人が成功や勝利、幸せをどんどん手に入れていき、そうでない人は指を咥えて他人を羨ましそうにみている残念な人生を送ります。

解決策は釣竿のようなものであり、目標を追いかける過程で出てくる問題をきちんと吊り上げることができればよいのですが、問題の大きさに比例して釣竿が貧弱でか細い場合は、ポキリと折れてしまうのです。

しかし生まれながらに誰もが強力な問題解決策を持っているとは限りません。細くて弱い解決策しか持たない人はどうすればよいのか。問題を前に絶望して、すべてを諦めるべきなのか。『孫子』の著者の孫武なら、そのような悩みを聞いて大笑いするでしょう。

なぜなら解決策は、自分だけに頼り切る必要がなく、他人の力を借りる方法を考えてもよいからです。逆に解決策の力が大きくなれば、狙う獲物である目標を膨らませることも可能です。釣竿と獲物である魚の大きさはバランスであり、強力な釣竿なら巨大魚を狙うことも十二分に可能だからです。

問題につまずきもうダメだ!となる人は自分だけを見ており、問題を踏み台にして笑顔でのし上がる人は、解決策を広く複数の選択肢から強化していける人なのです。現代の経営者で孫子の兵法を最も上手く使いこなしている人物は、なんといってもソフトバンクの経営者である孫正義氏でしょう。

若いころ教師になる夢を諦めて米国に留学してから、コンピューターの黎明期に出会い、目の前の成功を積み重ねて現在の巨大帝国を創りだしています。孫正義氏の凄いところは、既成概念にとらわれない解決策を見つけることができる能力です。

戦場でギリギリの決断をしなければならない将軍は、常に新たな選択肢を見つける精神的な柔軟さ、発想の広さを求められます。日常のごく些細なことでさえ、解決策はいくらでも存在すると考えることができる人は、他人がつまずく問題を前に、笑顔で問題を踏み台にし、その解決に成功することでさらに勝者の階段を登っていける人なのです。

なぜ、できない人ほど自分を課題評価するのか

「不敗」、まず失敗しない体制を作り上げる

兵法書、すなわち戦争に勝つ為の書籍だと考えると勇ましい言葉が沢山出てくる本だとイメージする人もいるかもしれません。ところが最強の戦略書といわれる『孫子』には、勇ましい言葉はほとんど出てきません。むしろ落ち着いた言葉で流れるような解説をしている雰囲気さえあります。

『孫子』の中心的な思想の一つは「不敗」すなわち負けないことを第一としているからです。国家の存亡をかけた古代の戦争では、敗北は国の滅亡を意味し、将軍や兵士の死を意味したからです。手に入るものではなく、まず失うものの大きさをイメージすることを優先した思想だということもできます。

そのため、勝負を一か八かの賭けのようなものとは考えず、戦う前に相手を圧倒できるだけの大差をつけておくことを狙う発想を持っています。「あらかじめ勝利する態勢をととのえてから戦う者が勝利を収め、戦いをはじめてからあわてて勝利をつかもうとする者は敗北に追いやられる」

「不敗の態勢をつくれるかどうかは自軍の態勢いかんによるが、勝機を見出せるかどうかは敵の態勢いかんにかかっている」

勝負を「リスクのある賭け」にせず、「周到な計算」にする思想が孫子の言葉から感じられると思いますが、人生において何度か勝負をしなければならない私たちが、そのたびにリスクある賭けをするのならば、手痛い失敗を幾度も体験することになってしまいます。

そのような事態を避けるため、戦う前に既に勝っている状態を創るべきだと孫子は教えています。それはちょうど、会議が始まるまえに既に根回しを終えている姿、イベントの開催日前にチケットがすべて売れているような理想的な勝ちを実現する考え方なのです。

敗者は勝者がワクワクするものだと考えている

勝者は勝負の前に、すでに勝つ確率を高める算段をしています。一方の敗者は、勝負がワクワクするものだと考えて当日にだけ全力を尽くし、時の運が良いことをひたすら祈ります。ある意味で、敗者は事前の準備を軽んじ、その場で全力を尽くすだけで勝てると甘く考えているといってもよいでしょう。敗者を特徴づけるキーワードの一つは、勝負に対する甘い見通しなのです。

孫子は敗者とは真逆の発想をしています。勝負が始まる前に、勝算を限界まで高めることを基礎としているからです。以下、

【勝利の目算を高める5つの基本条件】

○彼我の戦力を検討した上で、戦うべきかの判断ができること
○兵力に応じた戦い方ができること
○君主国民が心を一つに合わせていること
○万全の態勢を固めて敵の不備につけこむこと
○将軍が有能であって、君主が将軍の指揮権に干渉しないこと


上記は孫子の記述をほぼそのまま短縮したものですが、現代ビジネスに翻訳すれば以下のように読み直すことができます。 

5つの基本条件を現代ビジネスで読み直す】

○それは本当にあなたが始めるべきことであるかよく考える
○今の自分の実力や立場に応じた始め方ができること
○同じ目標の仲間、応援団を作り上げる
○自分の外にある機会に目を開いておくこと
○有能なパートナーを選び、能力発揮を妨げない
 

孫子の5つの基本条件は、私たちが日常のビジネスで心掛け、実行できる実利的な行動ばかりです。興味深い点は、やはり「それは本当にあなたが始めるべきことか」というように、打って出る勝負を慎重に選ぶことを最初に提示していることでしょう。


間違った勝負を選んでしまえば、すべての努力が水泡に帰してしまうからです。猪のように猛進するのではなく、自分が戦うべき戦場を正しく選ぶことから勝負が始まる、「あえて戦わない」ことを選択することで、本当に大切な勝負に集中できることも、孫子の兵法の強みです。

勝者は健全な緊張を好み、敗者は怠惰で自由を好む

一番重要な勝負に集中できるよう、進軍する戦場を慎重に選ぶこと。実際に戦う前に、極限まで勝率を高めておくこと。勝率を高める5つの条件を整える姿勢から見えることは、勝つことに対する静かで密度の高い"執念"です。

一国の存亡を委ねられた将軍は、軽はずみなことで戦いを始めることはできず、正しい戦闘を選び、確実に勝つことが求められます。敗北は祖国の消滅を意味したからです。孫子の描く勝者とは、努力の汗も見せず圧勝する者です。勝負に関する準備、見通し、執念のすべてで敗者を凌駕しているからです。

孫子が描く勝者と敗者の対比から、逆に敗者の典型的な姿も浮かび上がります。私たちは戦略の天才が指摘した「敗者の共通項」をできるかぎり避ける必要があるのです。

 

【敗者の2つの共通項目】

○勝負を軽く見る、事前準備が必要ないと思うほどに
○非現実的なほど自分を過大評価し、自分の欠点を重要視しない

 

さらに言えば、敗者はストレスが溜まらない環境にいて、勝者は常にストレスにさらされています。理由は勝者が常に新しい挑戦に手を伸ばしている一方、敗者は欲しいものをすぐに諦めて手を伸ばす行動を厭う習慣を持つからです。挑戦へのストレスの中にいることで、勝者は健全な緊張感を好み、敗者は怠惰で成果のない自由を好むのです。

劇的な社会変化、マーケットの変化に直面している日本企業とビジネスパーソンですが、正しい勝負を選び、次の成果に向けて手を伸ばしている勝者は大勢います。一方で過去も含めた自らを過大評価し、静かな衰退というぬるま湯の中で次第に行動力を失う敗者も存在します。

問題は私たちがどちらの側に属しており、本当に勝利を手にする気概をもっているかどうかです。勝ちたいと願う人たちが、その情熱をやみくもな行動で潰さずに、階段を一歩ずつ登るように確実な勝利に変換していく。

2500年間、勝者を支える最高峰の戦略書であり続ける『孫子』。孫武という稀代の天才が残した書は、古代中国の時代から不変の勝者と敗者の違いを鋭く浮かび上がらせているのです。

なぜ、個人の能力より組織の力が勝るのか

解説書を書いて、武将に配った曹操

「治世の能臣、乱世の奸雄」と呼ばれ、2世紀から3世紀にかけての古代中国の歴史、三国志で華々しい活躍をするトップといえば、魏の曹操です。

半ばフィクションの三国志演義は日本でも人気が高く、劉備玄徳と関羽、張飛が活躍する場面も多いのですが、実際の史実では魏の曹操が時代の支配者として描かれています。彼は多くの人物を登用し、「唯才是挙」つまり才能があれば他のことは問わず重用することを掲げて優秀な人材を吸収していきます。

ご存じの方も多いと思いますが、私たちが現在13篇の形で目にする『孫子』は基本的には曹操が編纂し、注釈をつけていた『魏武注孫子』となっています。曹操は『孫子』に自ら注釈をつけた冊子を配下の武将に配って学ばせており、彼が兵法に精通していたこと、『孫子』を元にした組織づくりに並々ならぬ熱意を持っていたことがわかります。

実際、三国志の「正史」「演義」を共に読むと曹操が指揮した魏は、軍師も含めて個人に頼るよりも、軍師集団が活躍している様子がうかがえます。荀イク、荀攸ほか、軍師がキラ星のごとく集合し、一時的に個人の才能で敗れても組織全体の力で盛り返し、いつの間にか天下の大勢を掴んでいったのです。

「俘虜にした敵兵は手厚くもてなして自軍に編入するがよい。勝ってますます強くなるとは、これをいうのだ」

「戦上手は、敵、味方、地形の三者を十分に把握しているので、行動を起こしてから迷うことがなく、戦いが始まってから苦境に立たされることがない。敵味方、双方の力量を正確に把握し、天の時と地の利を得て戦う者は、常に不敗である」

曹操は、一時は敵であった張遼という武将を強敵の呂布の軍から抜擢し、その後長年続く戦争の有力な人材に仕立て上げました。一方で能力があっても自分には扱えない呂布を殺し、全体の統率を維持しながら人材の強化を成し遂げています。

諸葛亮孔明という天才が劉備につき、赤壁の戦いのあと中原という地域を魏と争いますが、一時は曹操も自国の都の遷都を考えるほどの危機を迎えます。ところが魏の司馬懿などの献策により、包囲網の弱点だった関羽を背後から突かれ、呉との同盟も瓦解。

突出した才能で一時的な勢いを得ても、総合的な組織力と勝利へ一致団結できる統率力の前には、最終的には負けてしまう姿が描かれているとも言えるでしょう。曹操は長年組み上げてきた『孫子の兵法』に基づく組織力によって、危機を脱して天下に揺るぎのない勢力を創り上げることに成功したのです。

組織づくりの原則、基本を再確認せよ

人間、同じ組織に単に所属するだけで、隣の同僚と団結協力し、全力で勝利を目指すかといえばそうではありません。なんの管理もない職場では、人は容易に仲違いして反目し、お互いに嫉妬で足を引っ張り合うことが日常茶飯事になるからです。

さらには権力を持つリーダーや上司におもねり、仕事の実力ではなくお世辞がうまい人間が出世するなど、人事における不公正やリーダーの配慮のなさも組織力を損ねます。単に雇用するだけでは、その人の200%全力の能力を発揮させるなど、夢のまた夢です。このことは、巷によくある職場の現状を見聞きすれば、誰もが納得するでしょう。

「呉と越とはもともと仇敵同士であるが、たまたま両国の人間が同じ舟に乗り合わせ、暴風にあって舟が危ないとなれば、左右の手のように一致協力して助け合うはずだ」

「全軍を打って一丸とするのは、政治指導が必要である。勇者にも弱者にも、持てる力を発揮させるためには、地の利を得なければならない」 

雇用する側の目標意識と、雇われる側の意識には大きなかい離があることが通常であり、なおかつ複数の人材が同じ職場で働くと、目標達成以外のことに余分なエネルギーを使い混乱や停滞を招く。これは2,500年前に孫武が生きて活躍した時代から、曹操や劉備の三国志の時代、そして現代のビジネスシーンでも変わらない風景だと言えるのです。

部下の目的意識のなさにイライラし、職場の一致団結ができてないことを嘆くなら、孫子の兵法に書かれた組織づくりの原則を読み、基本を再確認するとよいかもしれません。

部下が自然に活躍する環境を作り出せ

危機の時、対策がわかっていても「どうせこのリーダーに提案してもムダ」と周囲から思われていれば何のアイデアも部下から出てきません。やる気のなさや、アイデアや創意工夫のなさは、言葉を変えればリーダーや上司の魅力不足といえるかもしれないのです。

魅力という言葉でなければ、上司が「部下が頑張ってみたいと自ら思う」環境を創り出していないと捉えることもできるでしょう。厳しい上司が部下を監視していても、勤務時間ずっと張り付いていることはできず、一人の部下に監視がつかなければ業務レベルを高めることができないのは、はっきり言って極度の非効率さです。

したがって、部下が自ら目的意識を高め、やる気をもって仕事に取組み、チーム全体で勝利へ向けて自然に一致団結する形にするほうがよほど健全です。孫武は呉の軍師として楚に勝利し、周辺国家ににらみを利かせるほどの強国を創り上げたのですが、君主が二代目になったことで呉の将来に見切りをつけ、被害が自分に及ばない時期に姿をくらましてしまいます。

伝説として兵法書を書き記すために隠棲したとも言われていますが、自分の君主が暗愚であることで、将来の悲劇を予想していたのでしょう。

会社が傾けば、優れた能力を持つ社員ほど早く離れていくことは、現代のビジネスにも共通する現象です。優れたアイデアが部下からどんどん上がってくるか、誰もが黙って下をむいて、この上司じゃダメだよねと内心で匙を投げているのか。

部下が自然に全力を発揮したいと思い、勝利に向けて一致団結できる環境を作るリーダーの指揮する軍こそが勝利を収める。古今東西、2500年の昔から不変の組織原則を『孫子』は指摘しており、だからこそあらゆる時代で勝者を支える最高の戦略書であり続けたのです。

孫正義は『孫子』から何を学んだのか

「孫の二乗の法則」を創った孫正義

孫正義氏は、1981年にソフトバンク株式会社を創業。同社は現在、国内の時価総額でトヨタ自動車に次いで2位、携帯通信事業者として世界3位の売上高を誇ります。グループの全従業員数は約7万人。創業からわずか35年間でこの成功を生み出した孫氏は、東洋のビル・ゲイツともウォーレン・バフェットとも言われています。

孫氏は有名な「孫の二乗の法則」として。25文字の事業戦略を20代半ばで創り上げています。詳細は書籍『孫の二乗の法則』などを見て頂きたいですが、内容の半分程度が孫子から、残りの半分を孫正義氏が創り出して現代ビジネスに当てはまるようになっています。

○理念=道点地将法(どうてんちしょうほう)
ビジョン=頂情略七闘(ちょうじょうりやくしちとう)
戦略=一流攻守群(いちりゅうごうしゅぐん)
将の心得=智信仁勇厳(ちしんじんゆうげん)
戦術=風林火山海(ふうりんかざんかい)

「いままで僕は数千冊の本を読んで、あらゆる体験、試練を受けて、この二十五文字で、これを達成すれば、到達すれば、僕はリーダーシップを発揮できる。後継者になれる、本当の統治者になれるというふうに心底思っている」

上記は、孫氏の後継者を育成する「ソフトバンクアカデミア」の開校式の講義での言葉ですが、日本の枠を飛び越えて世界的な企業をわずが35年間で創り上げた人物が、20代半ばから孫子の兵法をビジネスに深く応用していたことがわかります。

多くの試練を潜り抜けながらも、ソフトバンク(株)が急成長した姿は、戦国時代を駆け抜け覇者になった国家を連想させます。孫正義氏の活躍を見て、2,500年前の『孫子』が古いとは、誰もいうことができないと思われるのです。

勝利を仕組化し、優れた人材を抜

徹底して勝利を仕組化し、危うい幸運によるまぐれな勝ち方ではなく、盤石の態勢を持つことによる本来の勝ち方を目指す。『孫子』と正義氏の思想には、勝負に対するある種の共通点が見受けられます。また、優れた人材を吸収し全軍を勝利に導く「将」の存在をクローズアップしている点も、極めて似通っています。正義氏は「将」について以下のように語っています。

「どんな戦いをやるにおいても、優れた将を得なければ大きな成功はできない。(中略)皆さんを支える優れた将を最低でも十人、皆さんのために、場合によっては腕の一本、足の一本をいらんと、場合によっては命さえもいらないというぐらいの志を共有する、そういう将を皆さんがどれだけ部下に持てるかと。これが皆さんが大将の器として、山を引っ張れるかどうかというようなことになる」

実際、正義氏はビジネスの節目、小さなベンチャーから台頭する過程で、出会ったビジネスマンの中で特に優秀な人を見つけ抜擢、勝負の最前線で重要な役割を担わせてきました。SBIホールディングス代表取締役社長である北尾吉孝氏も、野村証券在籍時にソフトバンクの株式公開を担当したことで、正義氏と知り合い、ヘッドハントされた一人です。

正義氏は、単に優れた人材に仕事を任せるだけではなく、抜擢した人材が全力を発揮できるように、常に舞台管理をおこない「将」を挑戦の矢面に正しく立たせる配慮をしています。

これも孫子の兵法に一致し、組織を一丸となって勝利に向かわせる基本と同じです。ある意味、2,500年前の孫子の兵法を、漏れることなく適切に使いこなす姿には、勝利へのあくなき執念を感じさせ、「兵は国の大事である」という孫子の基本理念に極めて忠実なビジネスを展開してきたともいえるのではないでしょうか。

ソフトバンクがマルチブランド化を目指す理由

孫子の第七「軍争編」にある“風林火山”について、よく見ると孫正義氏の「風林火山海」には、最後に「海」の一文字が追加されています。

「疾風のように行動するかと思えば、林のように静まりかえる。燃えさかる火のように襲撃すると思えば、山のごとく微動だにしない。暗闇に身をひそめたかと思えば、万雷のようにとどろきわたる」

上記の孫子の文言を受けての、正義氏のバージョンアップの理由はユニークで思慮に飛んでいます。戦いに、勝者として勝つだけでなく戦いを収める「海」のような存在を目指すことを採り入れているのです。

「「風林火山」の戦いが終わると、戦場は死屍累々としている。しかし、焼け野原のままではそこからまた新たな戦いが始まってしまう。勝者が、広い、深い、静かな海のように、すべてを飲み込んで、天下を平定して初めて戦いが終わる」

正義氏は、単一事業ではなく「企業群」「マルチブランド」にも信念を持って取り組んでいます。例えば30年程度の寿命で考えるなら、シンブルブランドで一事業に専念するほうが効率的なのですが、時代を超えて成長を続けるためには「マルチブランドを持つ企業グループ」であることが不可欠との考えで事業を進めてきたのです。

ソフトバンクという稀に見る成長を成し遂げた企業と、創業者である孫正義氏。その行動理念と実際の戦いの姿は、「孫子の兵法」を現代ビジネスに縦横無尽に使いこなす君主をイメージさせます。また極めて果敢な挑戦をしながらも、その裏では事業リスクを極限まで減らしていく工夫を常に怠らないことも、「不敗をもっとも大切なものとする」孫子の兵法の思想と完全に一致しているのです。

なぜ、個人の努力より「機会の大きさ」が
成功を左右するのか

ジカンの使い方を考えることが、孫子の時間術ではない

時間術といえば、24時間の中でどのように効果的に時間を使うか、ということが大抵テーマになっています。典型的な例では通勤電車で読書をしたり語学の勉強をしたり、といったところでしょうか。時間効率を少しでも向上する知恵を教えてくれる書籍は、書店に行けばたくさんありますし、実際にメリットのあるノウハウも多い物です。

実は孫子にも時間術が描かれています。しかしそれは、私たちが考える時間の有効活用ではありません。時間を活用するのではなく、自らの外にある機会を捉えるための時間の使い方なのです。

 

「勝機を見出したときは、すかさず攻勢に転じなければならない」
「攻めにまわったときはすかさず攻めたてて、敵に守りの余裕を与えない」

 

孫子が時間において意識しているのは「機会をモノにするための時間の使い方」です。機会に焦点を当て、時間そのものに焦点を当てているわけではありません。時間の有効活用とは、仕事のある人が夜にコンビニでアルバイトのかけもちをするようなものです。

一方の機会の有効活用とは、これから売れる商品やサービスを探し、自分の部署の仕事にとり入れたり、待遇をアップできる勢いのある環境に転職を成功させることです。

孫子は自らの外にある、戦場にある勝機を徹底活用するために時間を管理すべきだと言いました。それは、細切れの時間を少しでも活用しようとするのではなく、自らの外にあるチャンスに常に目を見開いておけ!という兵法独自の強烈なメッセージなのです。

主導権がある時間、ない時間を明確に意識せよ

物事を変えるには、戦場にある3つの時間帯を明確に意識する必要があります。

○主導権がまだ定まっていないとき
実際の戦闘
戦闘の結果、大勢が決定したとき

 

主導権がまだ定まっていないときとは、プロジェクトリーダーを探しているときです。誰かが手を挙げて、大きな存在感を示すことができればリーダーになれるときです。営業なら、提案見積りがまだ募集されている時期です。恋愛なら、意中の人がまだ誰とも交際していない時期です。実際の戦闘とは、決定したチームで活動をするときです。

そして大勢の決定とは、どこの企業が受注するか決定した時です。恋愛であれば、意中の人に特定の相手が決まったときです。
上記3つの時間区分を見れば明白なのは、主導権がまだ定まっていない時期に、どれほど時間密度を高めることができるかが勝負だということです。


この時間帯を意識して勝負をかけることで、残りの時間帯の成果が完全に決まるからです。プロジェクトのリーダーが決定したあと、あなたが立候補しても変わりません。意中の人が恋人や結婚相手を決めたあとでは、あなたの熱意は届きません。孫子は主導権が宙に浮いているときに、驚くべき速さを発揮せよと主張しているのです。

時間の活用に焦点を合わせている人は、時間の有効活用ができている一方で、自分の外にある機会に鈍感だったりします。時間を活用することに精いっぱいで、外に目を見開いていることができないのです。

時間の活用を、夜にコンビニでアルバイトするようなものだと先に書きましたが、24時間を有効活用する「時間活用術」のもたらすプラスにはおのずと限界があります。一方で、人生に成功している人は機会のレバレッジで大きく飛躍をしているのです。

孫子の時間術が「機会」に焦点を合わせてことからもわかるように、時間効率ではなく「機会を増やす」行動は、そのまま人生の時間の活用になるのです。

部下に仕事の成果が上がらない状態を与え続けていることは、チーム全体の時間を殺しているようなものです。彼らが成果を高い確率で挙げられるように、営業体制を変えたり説明資料を改善することは、チーム全員の時間効率を高めることになるのです。

負け組は時間について驚くほど無知である

孫子を読み解いていく過程でわかるのは、敗者というものが時間について驚くほど無知であるということです。戦場の3つの時間帯の区別を勝者が驚くほど強く意識している一方、敗者は誰かに主導権をにぎられたあとで、泣き言のようなことを言い続けるのです。

当たり前ですが、主導権を握るものがそのあとの長い時間、成功と幸せを手に入れます。あの仕事がしたかった、と言ってもすでに担当者は別人で決まっています。あの人が好きだった、と言ってもすでに別人と結婚しているのです。孫子の時間術は、そのまま人生の成功者の行動と直結していると言えるのです。

孫子の時間術は「時間活用」ではなく「機会活用」だと理解できたなら、私たちの日々には大きなチャンスがあることがわかります。例えば、年齢を重ねると時間が少なくなりますが、社会にある機会そのものが減るわけではありません。目を向ける対象をかえることで、人生をいつのタイミングからでも輝かせることができるからです。

ケンタッキーフライドチキンで有名な、カーネル・サンダースは60歳前後でそれまで成功してきた店を売却しています。幹線道路にあるガソリンスタンドに併設されていた彼のお店はチキンの美味しさで有名でしたが、高速道路ができたことで車の通りが完全に途絶え、借金の返済のためお店を売却したのです。

しかしサンダースの手元にはほとんどお金が残りませんでした(なんという不運でしょうか!)。普通、60歳といえば人生の総括をする時間帯です。その時間帯でほとんど無一文になってしまったら、たいていの人は嘆くことしかできないでしょう。これから老後を楽しむ資産を作るには時間が足りなさすぎるからです。

ところがサンダースは、人気の高かった自分のフライドチキンの製法を教えるフランチャイズを展開。製法を教えた店の売上から、一定の割合をもらうビジネスを開始します。なんと店を売却してから10年もたたずに、サンダースのフランチャイズ店は600店舗を超えていました。

もしサンダースが「時間の活用」だけに焦点を合わせていたら、老齢期に入った自分の境遇に簡単に絶望していたでしょう。彼は孫子の時間術と同じく、機会の活用に焦点を合わせたことで、私たちの社会にその名を残すほどの成功を収め、裕福な成功者として90歳まで長生きし、大きな達成感と共にこの世を去ることになったのです。

なぜ「できる人」より「好かれる人」が出世するのか

能力が高いことより、嫌われないことが重要

峰の戦略書として世界に知られる孫子は、現代人にとって多くの名言を残した存在でもあります。「兵は拙速を重んじる」なども有名ですが、「はじめは処女のごとく」で始まる言葉も、私たちの教養的な知識といってよいでしょう。

この言葉は勿論、処女の演技を推奨するものではなく、相手の隙を作り上げる作戦の効果と重要性を指摘したものです。例えばダッシュするウサギのような突撃力を持っていても、相手があなたの攻撃を十二分に警戒し、守りを鉄壁のように固めていれば威力は半減してしまいます。逆に相手が無防備であるほど、あなたの攻撃の威力は倍増するのです。
 

「要するに、最初は処女のように振る舞って敵の油断を誘うことだ。そこを脱兎のごとき勢いで攻めたてれば、敵はどう頑張っても防ぎきることはできない」
 

この言葉を考える時、ビジネスパーソンへの教訓として「純粋に能力が高いことより、嫌われないことのほうが重要」とよく言われる理由がわかります。何らかの学歴や肩書、能力を鼻にかけて相手に嫌われるような態度を取れば、結果としてこちらの提案や商品、メッセージを相手が受け入れなくなるからです。

別の視点で考えるなら「嫌われないこと」「好かれること」自体、ビジネスで効果を発揮する一つの才能ともいえるでしょう。相手が心を開いてくれるなら、あなたの提案はより心に響きやすくなるのは当然のことです。

上司であれば、部下があなたの指示を素直に聞き入れて行動する人間関係を作り上げておくことです。それは時に、優れた指示能力以上に必要な行為といってよいでしょう。

仕事ができる人は周囲の警戒や反発を避ける

優れたカウンセラーは、相談者の話しの中で相手への回答がすぐにわかっても、相手が話しを終えるまで静かに待つものです。理由は相手が心を開き「この人は自分の話しを親身に聞いてくれる人だ」と理解を得ることで、カウンセラーのアドバイスがよりスムーズに相手に浸透することになるからです。
 

社内でも、具体的な成果以外のところで目立ちすぎるのは考えものです。常に注目を浴びていれば、ライバル視する人たちや妬みがやがて生まれるからです。それが特に自分の上司や肩書で上の人たちも含まれると、問題はやっかいになります。自分を追い越す存在だと思われたら、回してくれるはずのチャンスもあなたに巡ってこなくなるからです。

孫子を活用して仕事のできる人は、自分の武器を無用に振り回して周囲の警戒や反発を招くのではなく、感情の摩擦からくる損を正しく避けることができる人です。お互いを受け入れて、相手の長所を引出し、こちらを有効活用してもらう。

足を引っ張らずに協力して勝利を目指すならば、チームの力を何倍にも高めることが可能です。逆に高飛車に出たり相手の感情をむやみに逆なでする人は、本来なかった障害を、自分の前にいくつも持ってきてしまう損な道を歩むことになります。

「打つ手打つ手すべてが勝利に結びつき、万に一つの失敗もない。なぜなら、戦う前から負けている相手を敵として戦うからだ」

「勝つ」とは相手を打ち負かすだけでなく、好意的に受け入れてもらうことも意味します。敵意や警戒ではなく、周囲があなたに親近感と好意を抱いていればそれだけで仕事の成功に大きく近づきます。多くの仕事を成し遂げて社会的に高い地位にある人達が、一様に丁寧で腰が低いのは、幾多の経験から成功する要素を持ち合わせて発揮しているからだといえるでしょう。

あなたのプランなら必ず受け入れ実行すると周囲が考えているならば、打つ手打つ手は必ず勝利に結びつきます。お客様であれば、あなたの提案する商品なら間違いないと喜んで購入頂ける関係こそ、孫子の兵法が真に目指すところなのです。

常に目に見えない力が勝者を支えている

実は、相手の油断を誘う「はじめは処女のごとく」の言葉と、有名な「兵は拙速を重んじる」は効果としては同じものを求めています。相手にこちらの攻撃への準備・防備をさせないということです。ビジネスにおいて速さというのは、競合他社が準備を整える前に勝つことを意味します。

概算見積りの提出が、常に他社より早ければ「検討されないで負ける」ことはありえず、しかも他社の提案を見る前に受注できる可能性も高まります。早い見積りを評価する顧客は、納期の早さや手間のかからなさを喜ぶ傾向があるからです。

企業変革において、新しいリーダーの取るべき道は2つあります。一つは、どんなことが始まるかと警戒している社員をまず安心させること。

もう一つは、大きな方向転換を阻止しようとする古株の社員が抵抗の態勢を固める前に、断固とした方針を示して行動を開始することです。さらにリーダーは、社員が驚いている期間に一定以上の成果を生み出すことができれば最高です。自然と新リーダーに、皆が従う流れが形成されるからです。

孫子の指摘を振り返ると、何か成果を上げるためにとにかく「能力が高い」だけではなく、隠された別の道があることがわかります。

テストの点数や資格取得などと違い、人に好かれて嫌われない能力(社交的な人柄や優れた人間性)や、ずば抜けて速い実行力などは測ることや点数化が難しい能力です。しかしそのような能力こそ、実社会での勝者を支えている力なのです。

不思議にスルスルと出世階段を登っていける人、ふわふわした雰囲気で仕事をしているのになぜか顧客に好かれて信頼が厚く、大口の売り上げをいつも獲得している人など。

一見なんの脅威とも思えない能力が、実は自信満々の人間にはできない成功を成し遂げる力となる。孫子の指摘は、勝利への道はいくつも分かれており、正解は一つと思い込む視野の狭さこそが、勝者になれず負け続ける側の隠れた共通項だと示唆しているのです。

なぜ「事前の準備」ができていない人ほど
奇跡を信じるのか

なぜ孫子は戦う前から勝ちが見えていたのか

孫子は戦う前に「勝利の目算を高める」ことを何より重視していますが、リーダーが意識すべき5つの条件を列挙しています。この5つチェックポイントは戦場を選び、戦う態勢を整え、優れた将軍に実力を如何なく発揮させることを目指しています。

○彼我の戦力を検討したうえで、戦うべきか否かの判断ができること
兵力に応じた戦い方ができること
君主国民が心を一つに合わせていること
万全の体制を固めて敵の不備につけこむこと
将軍が有能であって、君主が将軍の指揮権に干渉しないこと」
 

2の「兵力に応じた戦い方ができること」は、ビジネスに例えるならどのように始めるか、に当たります。従業員が数万人を超える大企業と、家族経営の延長線上にある小規模の会社では当然新規事業の始め方が違いますし、狙うべきチャンスの種類や規模も異なります。

美味しい話、すなわち何らかのチャンスが持ち込まれても必ずしも自社にとって絶好の機会であるとは限りません。素晴らしいチャンスでも自社の現在の環境と一致しない機会であれば手を出すべきではないかもしれないのです。

逆に言えば、君主は「自分たちが戦うべき戦場」を見つけ出すことに最善の努力を注ぎ込む必要があります。組織のトップは自社が進出して有利になる戦場を選び出すことに能力を使い、選別したチャンスに対して全軍を突撃させる必要があるのです。

一度戦闘を始めると、勝敗がつくまで簡単に撤退できません。そのため一歩を踏み出す分野は慎重に選ぶ必要があります。ソフトバンクを巨大企業に育てた創業者、孫正義氏は若い創業当時、事業分野を決定するまで1年間をかけ、そのあいだ情報収集と業界研究だけに時間を注いだと言われます。

とことん追求できる機会でなければ、安易に手を出したことで逆に成功へ遠回りになりかねないからです。したがって、追いかけ続けることができる機会か、慎重に見極める必要があります。戦闘が始まれば、この戦いに死力を尽くすことになるのですから、それだけの価値があるかを何より判断すべきなのです。

チャンスに対してアプローチを工夫する

「始め方」を工夫することで、有利に戦いを進めることも重要です。典型的な事例は、海外進出の際に現地代理店をまず募集し、数年間の契約期間を設定するなどです。

自社が直営するまでに至らない売上規模の期間は、代理店契約を継続し、いよいよ直接進出をするまで市場が拡大熟成した時には、契約継続を停止し、店舗を買収するなどで積極的に直営ビジネスに乗り出す例は、日本国内、海外で無数に目にすることができます。


これは市場の成長の各段階を追い掛ける形で進めていく、無理のない進出方法です。大きく考える場合、ソフトバンクが1995年当時世界第2位のコンピューター見本市だったCOMDEXを買収したように事業を丸ごと買ってしまうことも「始め方」です。

翌年のCOMDEXの基調講演はIBMCEOルイス・ガースナーでしたが、孫正義氏が講演者の紹介をして世界的な知名度を得ることになりました(2001年に同社はCOMDEXを売却)。買収する場合も方向性はさまざまですが、最近話題になったサントリーの米ウイスキー大手「ビーム社」の買収などもあえて大手・超メジャーブランドを購入しています。

小さく考える場合、一つの新しい商品を店舗で取り扱い始める、新しい販売ルートを一つ開拓するなど、極小のきっかけから始めることもできるでしょう。自社の現状に対してリスクの低い始め方をできるなら、それだけ挑戦を行うことが簡単になるというメリットもあります。アプローチの方法自体の洗練、最適化が勝率を大きく高めてくれるのです。

リーダが陥りやすい5つの危険

実行部隊の指導者としてのリーダー(将帥)を、孫子はどのような形で描いているでしょうか。将帥の陥りやすい失敗点について、孫子は興味深い指摘をしています。
 

【将帥の陥りやすい5つの危険】

○いたずらに必死になること(これでは討ち死にする)
○なんとか助かろうとあがくこと(捕虜になるのがおち)
○短期で怒りっぽいこと(みすみす敵の術中にはまる)
○清廉潔白すぎること(敵の挑発に乗ってしまう)
○民衆への思いやりを持ちすぎること(神経がまいってしまう)

 

猪突猛進、勝ち目のない戦場でも必死になる将軍は戦死し、勇気をもって戦うことを知らない将軍は応戦すれば勝てる戦場でも、毎回捕虜になってしまう。ここで描かれる5つの失敗は、1つのことにこだわりすぎる、偏りすぎることから生まれる危険を指摘しています。

バランスが取れていないことである程度上手くいく人は、逆にそれが弱点にもなるということでしょう。勝ちパターンが完全に固定されている人も、足元を掬われやすい。では、孫子はどのような将軍を優れた人物として描いているのでしょうか。


戦場で柔軟性を失わず、君主に命令されたことを鵜呑みにするのではなく、自ら戦うべきとき、そうでない時を主体的に判断できること。結果として功績があっても名誉を求めず、敗北しても責任を回避しない。ひたすら人民の安全を願い、君主の利益をはかる。

ビジネスにおいても、仕事の本質から目をそらすことなく成果を追いかけ、悪戯に目立つことを避けて周囲の和をはかり、会社の利益に常に貢献する。このような人物こそ、企業社会における真に優れた将軍であり、国の宝(企業のエース)といえるのです。

5つの条件を元に健全な判断力を持ち、成果を出すために柔軟に攻めることができる人こそが、優れた将軍としてビジネスでも成果を出し続けているのです。

なぜ、部下の力を200%引き出すことができるのか

部下がやらざるを得ない環境を作る

外なことかもしれませんが、兵法書の『孫子』は戦略戦術だけでなく、組織論にページを大きく割いています。

組織をどうまとめるべきか、兵士の実力を200%引き出すためには、リーダーは何をすべきかを書いているのです。第十一「九地編」で孫子は、どんな軍隊の兵士でも、戦闘が怖いのは当たり前であると指摘しています。 

「彼らとて実は、財産は欲しいし、声明は惜しいのだ、出陣の命令が下ったときは、死を覚悟して、涙が頬をつたわり、襟をぬらしたはずである」

 「そのかれらが、いざ戦いとなったとき、専諸や曹けい顔負けの働きをするのは、絶体絶命の窮地に立たされるからにほかならない」

現代ビジネスでは、戦場に出陣して死と隣り合わせ、という体験をすることはありませんが、別の意味で孫子の指摘は当たっています。ほとんどのビジネスマンは、自分の本来の能力を100%発揮して必死になることはなく、仕事に熱中するよりむしろ手を抜く方法を考えることが多いからです。

勿論、会社が期待する成果を出していれば問題はありません。しかし孫子は、平凡な兵士も英雄のような獅子奮迅の活躍をする条件を整えることを目指すべきだと言っています。逆に言えば、あまり真剣に仕事に打ち込んでいない部下の姿にイライラしているのは、実は会社や上司が職場環境を正しく整えていないことが理由かもしれないのです。

孫子は「窮地に立たせる」と書いていますが、社員を追い込むのではありません。社員がやらざるを得ない状況に置き、仕事に真剣に向き合える場を創ることがポイントです。

職場のチームを勢いに乗せるリーダーたれ

また孫子は、職場のチームを勢いに乗せるリーダーになることを勧めています。勢いのある職場に入れば、大抵の人はその場の活気に流されて元気になり、自ら積極的に動き出すことになるのです。個人の奮起に期待するより、チーム自体を勢いのあるものにするリーダーの指導こそが大切なのです。

「戦上手は、なによりまず勢いに乗ることを重視し、一人ひとりの働きに過度の期待をかけない(中略)。勢いに乗れば、兵士は、坂道を転がる丸太や石のように、思いがけない力を発揮する」

よく言われることですが、動くことで成果が出る仕組みを作り上げることができれば、新人社員でも仕事が面白くなるものです。最初は仕組みで成果が出るのだとしても、自らの行動に対して自信を深めていくプラスの経験ができるからです。

そのためリーダーは「勝てる戦場」に部下を連れていく必要があります。この連載を通じて、孫子がいかに戦場を慎重に選んでいるかを解説してきましたが、戦うべき戦場を巧みに選び、兵士が戦果を挙げることに自信を深めるようにできるリーダーは、自軍に勢いを生み出し、それに部下を巻き込んで勝利を重ねることができるのです。

さらに孫子は組織を効果的に率いる3つの要素を提示しています。

○乱を治に変える「統率力」
怯を勇に変える「勢い」
弱を強に変える「態勢」

 

この3つはある種、舞台装置のようなものでその上に乗ることで、平凡な兵士も勇者のように戦う者に成長していくことになるのです。上司が部下を「あいつは使えない」と判断するとき、実は上司である自分自身が正しく職場の環境を整備していないことが原因かもしれないのです。

「統率力」とは、万一の場合や問題が発生した時の対処法を予め決定し、組織内に行動様式として浸透させておくことです。これにより「どうしていいかわからない!」という混乱を事前に避け、問題を粛々と解決することが可能になるのです。

「勢い」とは小さな成功を体験させることで自信を生み出し、自分にはできる、次も乗り越えることができるという信念を育んでいくことです。小さな成功と勝利を、ステップを踏んで体験させていくのです。

「態勢」とは、経験を積むことで成長を促す仕事を任せることです。会社側、上司が勝てる戦場を選び出し、進むべき場所を明示しておく。勝てる体制を作り上げておくことが、弱兵を強兵に変えていくきっかけとなるのです。

常勝軍団をつくりあげる3つのポイント

このように見ると、孫子は個人の才能だけに依存するのではなく、上司や組織が勝てる環境を作り上げることで、平凡な兵士を勇敢な兵士に自然に育て上げることが可能になることを指摘しています。ビジネスにおいても入社した人材が自然に育つ環境を作り上げることが、個人を叱責したり怒鳴り散らしたりするより、はるかに効果が高いのです。

個人に才能を求めすぎると、上司や企業は優れた環境を作り上げることを怠りがちになります。優秀な人の採用ばかりに注目している会社も、環境が勢いを創り出すことを忘れがちになります。孫子は、戦果を個人の適性だけに求めてしまうのではなく、指導者の環境整備の力に見出しているのです。

 

【常勝する軍団の3つのポイント】

○成果を上げることに必死にさせる
○仕事に熱中させること
○熱中し、必死に戦うチームをチャンスに殺到させる

 

もう一つ、孫子の組織論で忘れてはいけない点は「下に丸投げで成果を上げる」という発想とは180度違うことです。

君主、将軍を含めたマネジメント側は、部下が成長し勝利できる戦場を見極め、仕事の成果に必死、夢中になる環境の整備という重要な役割を担っています。そのため、正しい仕事の与え方こそが部下の才能と努力を200%引き出す基本となっていることは、部下が1人でもいる上司は心に留めておく必要があるでしょう。

「小さな勝利で終わる人」と
「大きな勝利を掴む人」の決定的な違い

新たな勝利につながる勝ち方こそが重要

「敵に勝ちて強を益す」つまり、勝ってますます強くなる。孫子の第2編「作戦」に出てくる言葉です。手柄をたてた兵士は、きちんと表彰する。捕獲した戦車は、味方の旗に変えて活用する。一つの勝利を、次の勝利に結びつけることを孫子はなにより重視したのです。
 

小さな成功が、部下の自尊心を高めることにつながっているか。チームの結束の強化につながっているか。今回の成功から、新たに何かを学んでいるか。これらは、次の成功を生むために必要な確認事項です。

さらに、味方が増える勝ち方をしているか、という点も大切です。成功することで、周囲に恨まれたり、反感を持たれていないか。勝ちを積み重ねるには、味方が増えていく勝ち方をしているかが重要なのです。

 

「俘虜にした敵兵は手厚くもてなして自軍に編入するがよい」

  

恨みを増幅しない勝ち方をすれば、昨日の敵を今日の味方にすることは、より簡単になるのは間違いありません。

「兵は拙速を重んじる」の言葉も、短期決戦を重視した孫子の姿勢を示しています。相争い、対決する時間は短ければ短いほど恨みが残りません。同様に、味方に恨まれない勝ち方も大切です。

 

「戦争で国力が疲弊するのは、軍需物資を遠方まで輸送しなければならないからである。したがって、それだけ人民の負担が重くなる。また、軍の駐屯地では、物価の騰貴を招く。物価が騰貴すれば、国民の生活は困窮し、租税負担の重さに苦しむ」

戦争で国民の負担が増して困窮すれば、かならず不満が満ちてきます。それは次の戦争を反対する声になり、政権の中枢を揺り動かす火種になるでしょう。ビジネスでも、自社内で恨みの声が残るような戦い方、勝ち方をすべきではありません。

やがて足をひっぱり、どこかで大きな敗北につながるからです。小さな成功の中に、あなたが次の成功の芽を育てているかが重要です。目の前の成功だけに目を奪われると、小さな成功で逆に没落する危険があるのです。成功や勝利を、かならず次につなげ拡大する意識が大切です。

なぜ目立たないことが大切なのか

小さな成功、少し儲かったなどの勝利があったとき。できるだけ目立たないように、周囲から浮かないようにすべきです。目立つことは周囲からの無用な詮索を生みます。次の成功と関係ない人間が寄ってくることにもなりかねません。 

「誰にでもそれとわかるような勝ち方は、最善の勝利ではない。また、世間にもてはやされるような勝ち方も、最善の勝利とは言いがたい」 

これは自然に勝つことを重視すべき、との孫子の指摘です。しかし同時に、勝ち続けるには一つの勝利が目立たないほうがよいとも理解できます。目立つことは、本来なかった向かい風を生み出す可能性があるからです。

あの企業が上手くいっている、あの社長が儲けている。このような話しが話題になるとき、尾ひれがついて伝わることが多いです。結果としていらぬ誤解を生み、人からうらやましがられたり、反感を買うことになる。

周囲の人たちにチヤホヤされるのが最終目標でない限り、目立たないことです。小さな勝利を当たり前に生み出せるくらいになるまで、じっと静かにしているのです。次の勝利を生み出すエネルギーを、他のことに取られてしまわないためにもです。

私たちが勝利を見せびらかすべきでない理由。それは、勝利を他社に真似られたり、利益を奪われる危険を避けるためでもあります。小さな成功で目立ち、あなたの成功要因が詳細に知れ渡った場合。当たり前ですが、誰かが必ず真似をしようと行動を始めます。

これではせっかく生み出した自社の成功の方程式も、長く効果を発揮しません。あっという間に、同じ池に釣り竿を垂れる人が殺到するようになるからです。

小さな勝利を大きな勝利につなげるには

「敵の態勢に応じて勝利を収めるやり方は、一般の人にはとうてい理解できない。かれらは、味方のとった戦争態勢が勝利をもたらしたことは理解できても、それがどのように運用されて勝利を収めるに至ったのかまではわからない」

上記の言葉は、第六編「虚実」の中にあります。ここでは「無形」すなわち形がないことの重要性を述べています。勝ったのち、次の勝利はさらに勝った理由がわからないようにすべきです。より自然に、より当たり前に、より努力が見えない勝ち方をするのです。

勝つことで、さらに賢い勝利を目指す。これを重ねると、勝利を続けているのに、やがて模倣者が生まれなくなります。あなたがどうして成功しているか、誰にもわからなくなったからです。 結局、敗者は小さな成功を思い上がりの入り口にしてしまいます。勝者は常に、勝利を新たな成長の糧にしているのです。この違いが積み重なると巨大な差を生み出します。

○勝利のたびに、自分の周囲の人材に感謝をしているか。
○勝利のたびに、自分の能力を過信して思い上がるか。

 

前者は勝利を、新しい挑戦に手を伸ばす基礎にすることができます。後者は勝利を、より大きな悲劇を生む落とし穴にしているのです。孫子は常に「最終目標を忘れるな」と説いたことを思い出してください。小さな勝利は、あなたが思い上がるためのものなのか。

それとも、本当に達成したい夢のための第一歩なのか。小さな勝利を、より大きな勝利につなげるにはどうすべきか。手にした勝利を前に、自分を賢く管理することこそ、最も大切な孫子の教えなのです。

なぜ小さな成功から大きな成功を導きだせるのか

小さな範囲でしか勝負できない理由

何かで成功した時、誰もが勝利を拡大したいと願いますが、上手くいくことは少ないものです。物理的に、小さな範囲でしかビジネスを展開できない理由あるからです。それは大抵の場合、「距離」と「時間」のコストを解決できないことが原因です。

成功が小さな範囲に留まっているその他の理由は、戦法の幅がないことです。一つのことに成功した戦法を、まったく違う問題にも使ってしまうのです。

○努力」で成功した人は、他の問題でも努力する。
○「忍耐」で成功した人は、他の問題でも耐えてみる。

 

自分が持っている道具が少ないので、その道具が有効な範囲しか掘り進めないのです。孫子の第九編「行軍」には次の言葉が出てきます。

「以上が、地形に応じた有利な戦法である。むかし、黄帝が天下を統一できたのは、この戦法を採用したからにほかならない」

地形に応じた戦法とは「山岳地帯」「河川」「湿地帯」「平地」の4つです。つまり、すべての地形の分類に応じて、異なった戦法を採用していたのです。逆に「山岳地帯」だけの戦法に通じていれば、あなたが勝利するのは山岳だけです。河川の場合も同じです。勝てる場所だけに、勢力範囲は留まることになるのです。

1店舗のお店を繁盛させる方法と、複数の店を繁盛させる方法は違います。山岳地帯での戦い方が、河川での戦闘で通用しないことと同じです。持っている解決策の種類と幅で、自分の活躍の範囲が決まるのです。私たちの会社が拡大しないのは、現在の範囲以上の解決策を持たないからです。拡大をするためには、新しい問題の解決策を手に入れるか、学ぶ必要があります。

黄帝が、平地だけの戦法しか知らなかったらどうなっていたか。伝説上の偉大な皇帝といえど、その占領範囲は極めて限定されていたでしょう。地理的条件の違いに対して、1種類の戦い方しか知らなければ、勝てる場所が極めて限定されるからです。

なぜ「低コスト」は強力な武器なのか

勝利の拡大を考えるとき、「低コスト」の体制は基本的に有利だとわかります。さらに管理する地理的な範囲が拡大しても、コストが上昇しないこともまた重要です。三国志時代の英雄、曹操は、屯田制度を敷いたことで食糧生産の拡大に成功しますが、食糧が敵陣営より豊富にあったことが、彼の成功の原動力の一つとなりました。

軍隊の食べ物を確保するために苦労せず、広域の戦闘に集中できたからです。曹操が中国南部を除くほとんどの地域を制覇したことからも、過去、習慣的に当たり前だと認めていたコストの削減を可能にすると、常識を超えた勢力拡大が可能になることがわかります。

「敵地で調達した穀物一鐘は自国から運んだ穀物の二十鐘分に相当し、敵地で調達した飼料一石は自国から運んだ資料の二十石に相当するのだ」
 

もし「時間」と「距離」のコストを打ち消すことができるなら、どんな効果やメリットがあるのでしょうか。新たな行動を起こすとき、従来の事業の半分のコストでできる。勝利の規模を拡大しながら、新たな挑戦を途切れなく続けていくことが可能になるはずです。
 

ちなみに、低コスト化は単純なコスト削減以外でも達成が可能です。日持ちがしない生菓子の「ういろう」を、昭和43年に名古屋の企業が保存する包装方法を開発しました。青柳総本家はこれによりお土産用の需要を爆発的に増やします。本来、数日で痛む生菓子の「時間」のネガティブな要素を打ち消す対策となったのです。

距離に関して、世界中で愛されている清涼飲料水コカ・コーラの事例。米国アトランタの本社から、特別調合された原液が世界中に輸送されており、その原液を元に、各国の工場でボトリングをしているのです。当然ですが、輸送コストは格段に安く、製品のフレッシュさも保たれます。これは「距離」のネガティブな要素を打ち消す対策となっています。

「時間」と「距離」が生み出すコストをどう削減するか。このアイデアを絞ると、ビジネスの活動範囲は大きく広げることができるのです。

世界一の店舗数を持つチェーンの秘密

拡大へのもう一つの原動力は、業界で本当に大切なポイントを見抜くことです。何が本当に重要なのか、何を強みに勝負をかけるべきなのか。その重要なことを見抜けたら、他社に比較して拡大はぐっと容易になるのです。孫子は距離のネガティブな要素を打ち消す重要性を指摘しています。
 

「戦うべき場所、戦うべき日時を予測できるならば、たとえ千里も先に遠征したとしても、戦いの主導権を握ることができる。

逆に戦うべき場所、戦うべき日時を予測できなければ、左翼の軍は右翼の軍を、右翼の軍は左翼の軍を救援することができず、前衛と後衛でさえも協力しあうことができない。まして、数里も数十里も離れて戦う友軍を救援できないのは、当然である」

 

サブマリン・サンドイッチで有名なファーストフード・チェーンのサブウェイ。2013年時点で、マクドナルドを抜いて世界一の規模を持つチェーン店です。店舗数は全世界で約38千店舗。この成功の秘訣は一体なんだったのでしょうか。

たびたび指摘されているのは、調理マネジメントの巧みさです。お客側は、野菜の種類やパンの焼き方まで指定できるのに、調理方法はいたってシンプル。調理スペースも極小。新人のアルバイトでも、あまり時間をかけずサンドイッチを完成できるのです。

この調理オペレーションのシンプルさが、店舗拡大の原動力になっているのです(速さはファースト・フードでは最も大切な要素の一つでしょう)。

・その業界、ビジネスで何が本当に大切なのか見抜くこと

あらゆるビジネスで、成功を続けるために必要な要素があります。同じように、拡大を続けるためには、重要なポイントがあるはずなのです。そのポイントを見抜いているか、どうすれば見抜くことができるのか。がむしゃらに努力するのではなく、戦うべき場所を正確に予測するのです。

サブウェイは調理オペレーションのシンプルさを拡大の原動力にしました。あなたの会社は、どんな強みを追求すれば、世界一の規模になれるのか。この一点に関する洞察の深さこそが、ビジネス拡大の勝敗を分けることになるのです。

大きな成功の90%は、あなた以外の要素で決まる

現場のチャンスを確実に掴めるか

孫子は、君主が優れた将軍の仕事を邪魔する口出しを戒めました。同時に、将軍に「君命でも従うべきでない時がある」と語りました。2つのことが教えるのは、孫子が将軍になにを期待しているかです。戦場の現実から、一番よい判断をして欲しいのです。

「必ず勝てるという見通しがつけば、君主が反対しても、断固戦うべきである。逆に、勝てないと見通しがつけば、君主が戦えと指示してきても、絶対に戦うべきでない」 

この言葉は命令違反を推奨しているのではなく、命令を鵜呑みにせず、全軍の勝利への機会を見つけ、それを掴みとることが本来の役割だということです。現場を統括する優れた人物に、実力を発揮させない環境は愚かです。そのため、マネージャーに「上司の命令」がすべてではなく、成果がすべてと考えさせることが重要です。

孫子が求めたのは、上司に対するイエスマンではありません。現場のチャンスを猟犬のように追いかけ、確実に掴んで勝つ将軍なのです。孫子は機会主義を、マネージャー職の将軍たちにも当てはめたと考えられます。君主一人が機会を探し、単一計画を組むのでは非効率です。現場に近い指揮系統にこそ、見えない機会が転がっているものだからです。

孫子は、常に将帥(マネージャー職)に自律性を求めています。「千変万化」「臨機応変」「戦場での自己判断」「兵士から全力を引き出す」。戦う際の原理原則を徹底的に伝えたら、あとは自由に才能を発揮させるようにしたのです。

これはマニュアルの「定石による失点を避ける」意図とは異なります。戦闘での基本、将帥に期待されていることをまず原則として伝える。

原則が必要なのは、自由にできることを逆に明確にするためです。原則に適するなら、制限なく自由闊達に、自ら成果を最大化せよと命じたのです。

孫子がマネージャー職に期待すること

孫子のこのような姿勢は、君主一人の指揮の限界を示してもいます。一人の人間の目、耳、鼻が捉える情報の範囲には、かならず限度があるからです。君主のみがアンテナを持ち、自己判断をする仕組みは組織が小さな時しか使えません。組織が膨張すれば、より多くの機会を発見する目と、危機を察知する耳が必要です。

孫子は、カリスマ社長のワンマン体制が正解とはしなかったのです。マネージャーにも自らの知恵を絞らせ機会を必死に探させる組織を目指しています。基本原則を教えることで自由を与え、自律性を発揮させて勝利を目指したのです。

孫子がマネージャー職に求めたのは機会主義です。機会を探しまわり、その機会を掴み勝利することです。これは現代ビジネスでもまったく変わりない不変の真理でしょう。
 

【孫子がマネージャー職に期待すること】

○機会を探す
○機会をすばやく掴み勝利する
○戦争のリスク面を理解する
○戦争の原則を理解する
○戦場の現実に合わせ変化する
○兵士を大切にして心服させる
○兵士に規律を厳しく守らせる
○愛情と厳しさで、兵士から200%の努力を引き出す

 

このリストを見ると、管理職という言葉のイメージが変わるかもしれません。管理はあくまで機会を掴み勝利するためであり、管理そのものが目的ではないからです。孫子流に言えば、「管理だけができる管理職」は失格となるはずです。最終目標は勝利であり、そのための管理が本当の業務だからです。

「管理だけができる管理職」は失格

将帥は、発見したチャンスを確実に勝利へと変えなければなりません。そのため、配下の兵士から200%の力を引き出すことが必要です。兵士の必死、全力を引き出すことで、勝利を掴み取ったのです。上司にとって、目の前にいる部下の全力以上の能力を引き出すことは、2500年前からの変わらぬ仕事なのです。

孫子は、リーダーこそが優れたアンテナを広げ続ける必要性を教えてくれます。自分だけがアンテナとして機能できる限界を超えるためには、組織全体を指揮しながら組織自体をチャンスを探し出すアンテナとすべきなのです。

孫子の発想の軸となっているのは「自分個人に過度に頼らない」ということです。一対一の武力的対決でない限り、将軍個人の武技だけでは勝てません。組織が巨大になれば、君主一人では絶対に全軍の挙動を管理できません。

大きな勝利は、一人の個人を離れた拡大していく指導力から生み出されるものなのです。大きな勝利を得るためには「自分ひとりへのこだわりを捨てる」べきなのです。君主は自分に頼らないとき、将軍に戦場での臨機応変な判断を任せられます。将軍は個人の指導力ではなく、環境の整備で兵士を効果的に動かせるのです。

共通するのは、大きな勝利には個人技より仕組みが重要だということです。個人の能力で勝とうとする時点で、その範囲は極めて小さいものになってしまいます。組織においてもやはり「大きな勝利の90%は、あなた以外の要素で決まる」のですから。

なぜリスクを最小化すると最大の成功が得られるのか

なぜ戦いを避けることばかりが目立つのか

この連載を読まれて、兵法書『孫子』に対するイメージが変わった方もいるかもしれません。その理由の一つは、筆者が『孫子』を積極的な行動を引き出すための書籍として描いていることも一因でしょう。

一方、広く普及している孫子のイメージは「百戦百勝するは善の善なるものにあらず」などのように、戦いを避ける、リスクを嫌うなどの点が強く印象に残ります。最終回はこのギャップについて解説したいと思います。

 

「戦争は国家の重大事であって、国民の生死、国家の存亡がかかっている。それゆえ、細心な検討を加えなければならない」

「百回戦って百回勝ったとしても、最善の策とはいえない。戦わないで敵を降服させることこそが、最善の策なのである」

この2つの文章は孫子の中でも有名な文章ですが、慎重さと軽率に戦わないことも重要性が強調されています。ところが、ありがちなこととしてこのような孫子のメッセージが「何もしないこと」の正当化に使われてしまうことがあるのです。

「戦わないで敵を降服させることが最善」であるのは事実ですが、何の策もなく、しかもなんの行動も起こさなければ、何も手に入ることはありません。失うものがないだけ良かったのだ、という考え方はできます。戦うこと(例えば新規事業を起こすこと)で、財産を失ってしまうビジネスマンは、決して少なくないからです。

ならば、一般に成功者とみなされる人たちも、上記と同じように「失わなかった幸福」に満足する道を常に選んでいるかといえば、そんなことはありえません。彼らは人より多くを手に入れ、多くの夢を叶えたからこそ成功者と呼ばれているのですから。

これは一体、何を意味しているのでしょうか?
同じ孫子を読みながら、一方は「手に入らないことに満足する」ことで終わり、もう一方はいくつも欲しいものを手に入れ、周囲がうらやむ人生を謳歌しているのです。

2022年4月2日

英知コンサルティング株式会社
代表取締役 社長兼CEO
Executive Consultant
清水  一郎 

サイドメニュー

代表取締役 社長兼CEO

  清水 一郎(64歳

戦略コンサルタント、人材育成トレーナー、エコノミスト、金融アナリスト、ビジネス&パーソナルコーチャー。

<学位>

博士(法 学)東京大院
修士(経営学)一橋大院・MBA
修士(経済学)慶應大院
修士(心理学)早稲田大院

<職歴>
財務省(官僚)
トーマツ監査法人(公認会計士
野村證券の依頼で3社の上場企業の取締役として経営に参画

3社の上場企業在職中に全ての間接部門を担当。現場で鍛え抜いた「実務派」。

2001年当社創業、2014年より当社専業。

株式上場責任者として5社のIPOを達成させる(精密機器メーカー、小売、商社、不動産、ITシステム)
 

全国どちらでもご訪問させていただきます。リモートコンサルティングも併用し柔軟性のあるプランをご提案致します。全国どちらでも、高品質なコンサルティングをご提供致します。


 

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